WISPr について

図らずも数ヶ月に渡って公衆無線LANサービスについて色々と書いてきましたが、その中で出ていたWISPrについての説明を少々しておこうと思います。

そもそもWISPrとは、 "Wireless Internet Service Provider Roaming"の頭文字を取ったものです。ここからわかるとおり、無線ISP間のシームレスなローミングを目的として策定が行われています。

Ver.1.0 は Wi-Fi Alliance 主導の下、2003年2月に策定が行われました。このバージョンでは、バックエンドにRADIUSを、フロントエンドにHTTPを用いた形が想定されており、Appendixという形で802.1xによる認証方式が記載されています。

が、策定時点において既に規格よりも実装が先行していたため、あくまでも「ベストプラクティス」集として制定されました。このため、特許など知的財産権侵害の可能性検討など、標準規格として必須の処理が行われないままに策定されてしまい、その辺りの処理は実装ベンダーに任されるような形になってしまいました。また、RFC2119で示されるような、いわゆる SHOULD/MUST/MAY を用いた実装要求水準が示されておらず、実装側もどの程度まで盛り込めば「準拠」と名乗れるのかがわからないという代物だったので、これらの問題点の解決を目標に、2010年4月、今度はWireless Broadband Allianceが主導してWISPr 2.0 が策定されました。

2.0では、1.0のAppendix Dで規定されていた"Smart Client to Access Gateway Protocol"を拡張するという形で規格が決められており、クライアント側の接続仕様(要はフロントエンド側)に焦点を絞ることで、よりクリアな規格とするような努力が払われています。また、このAppendix D以外に関する規定、例えば802.1xに関するものなどは全て棄却されており、代わりにEAP(Extensible Authentication Protocol)への統合が試みられています*1

もちろん、旧来の規格を捨て去るわけにはいかないので、後方互換性を取るよう図られています。が、個人的には一般的な公衆無線LANサービスにはEAP方式の認証は重すぎることもあり、2.0系はあまり普及しないのではないかなと思っています。また、国内で既に展開済みの携帯キャリアによる公衆無線LANサービスでは、ドコモが接続開始時には2.0でアナウンスし、その後1.0への移行を宣言、KDDI系(au/wi2)、ソフトバンク系(0001softbank/mobilepoint)は接続開始時から終了時まで全て1.0となっています*2

仕様書とXML Schemaはそれぞれ以下の場所で配布されています。

WISPR 2.0

Wireless Broadband Alliance の公式ページでメールアドレスを入力すると、ダウンロードサイトのアドレスが送られてきます。

*1:が、EAPにおいても特許関係の問題はそのまま店晒しのようです

*2:au_Wi-Fiに至っては、2.0でdeprecatedとなった PollNotification を使っててアレな感じ