なんという生化屋ホイホイな話の流れ

久々に面白いエントリ。

プログラマーに比べ、バイオ研究者に飛び抜けた才能が現れない理由のひとつ - ミームの死骸を待ちながら
Re:Re:プログラマーに比べ、バイオ研究者に飛び抜けた才能が現れない理由のひとつ - ミームの死骸を待ちながら

はてなー生命科学系の人ってあんまおらんのよな。まぁはてなーに限らず、生化屋さんでネットに通じてる人って割合少ないように思う。これはやっぱり残念なことだけどね。というか、先日学科内であった飲み会での与太話の内容と被るところが多かったので、感想というか何か。個人的にはこの辺の話が纏まってるわけではないので、支離滅裂なのは堪忍。

ITは所詮文房具

おいらはいわゆる構造生物学*1の分野に身を置いている生化屋さんの卵なのですが、仕事上PCを多用してます。

で、思うのは、やっぱりITインフラは所詮道具/プラットフォームに過ぎないわけで、生命科学一般とは違うと思うんだ。

ITというと漠然としてるのであれなんだけど、ITがここまで爆発的に普及した、あるいは関わる人口が増えたのは、とどのつまりは様々な分野で事象が抽象化されて*2プラットフォームがPCの上に移った+技術革新のおかげで「工場を簡単に持てる」ようになったのが大きいと思う。
こういう状態になればノウハウは自然と集まり出すし、結果的にlinuxでサーバーたてて、という程度の内容であれば一通りネットの解説ページを漁れば十分に知識として役に立つ。

ただ、そもそもの科学は「観測」が全ての出発点としてあって、数多の具体例を抽象化することで単純化・法則化し、次第に理論として完成されるというルートを辿るわけだけど、これは例えば宇宙物理とかだと、地球周辺の惑星だとか彗星だとかを見つけて望遠鏡で観測し、いくつかの観測データから規則性を見つけ出すことで何らかの法則をあぶり出す(ケプラーの法則とかが有名ですよね)、そして一般化ができると、今度は抽象化された法則を新たな対象に適用する(例えば人工衛星とか)という段階に入り、それがいわゆる工学ではないかなと。ざっくり過ぎるけど*3

これに対して、生命科学*4、特に分子生物学を中心とする分野*5は、まだDNAの構造が同定されてから50年程度しか経ってないわけで、そのレベルで対象の抽象化だとか、法則化はいくら何でもさすがに無理だと思う。ということは、未だに生命科学は「観測」の域を出ていないわけで、そのために莫大な初期投資が必要であったり、ある程度のスキルが必要となるのは仕方のないことではないかなと。実際、全てがわかってる訳じゃないから扱いにしくじったときに引き起こされる結果が予見しづらかったり、特に人間も生物体である以上、有害生物を扱っていた時に失敗した場合、多くの人間に被害が及びかねないのを社会的に規制するのはリスク管理の視点からは至極妥当だと。

まぁそれにしても現状の生物教育がどうなのよという話は…ね…。

倫理的な話

この辺の話は滅法弱いので及び腰なんだけど、あのアメリカでさえ、受精卵破壊の話は拒絶するというのを見るとやっぱり宗教の力は強いんだなと思う。日本の場合、そこまで強く国民一般に受け入れられている宗教的な指針というか基準があるのかというとちょっと微妙じゃないかなと。

じゃあ代わりに宗教以外のものが生命倫理についての基準を示すことができるのならば、それがいいに越したことはないけれど、日本における現状はマスコミの意見がその指針となってしまっているわけで。それがいいのか悪いのかはわからないけども、その指針自体が本当に理性的な議論に基づいてるのかなという点については、やっぱり疑問符を付けざるを得ないなと感じることが往々にしてあるのも事実。

個人的には、遺伝子組み換え食品はダメだけども医療技術として遺伝子を組み換えるのはいい、という議論には非常に違和感を覚えてしまう。遺伝子組み換え食品はダメだと主張する人たちの主張理由が混沌としているように感じられて、理性的に議論できるところまで行っていないように感じることが多く、一方で、iPS細胞の話になると諸手を挙げて賛成というスタンスが今ひとつ理解できない。特に後者の場合、突き詰めればそもそも医療とは何なのよ?、という話にまで行ってしまいかねず、自分の中で結論はまだ出ていない。

で、結局フレームワーク化した先にあるものは?

多分これが一番の問題。

仮に、生物現象を理論化できたとしよう。抽象化することができて、コンピュータの上で仮想的に単純な生物なら動かせる段階にまで行ったとしよう。

そこで、何をするの?

誰もが平等に、好奇心の赴くままに、生命をハック

することが本当に(社会的に)有意義なのだろうか。

データベースとか

ちょっと自己矛盾というか、あれなんだけども、知ってる人は知っている、数年前に文科省主導で行われたタンパク3000というプロジェクトがありました。詳しくはまとめサイトを見てもらえばいいと思うけど、じゃあこのプロジェクトで得られた研究成果を全てデータベースとして公開しますよ、と。じゃあその先にあるのは何なのだろうかと。

他にもBlastとか(いつもお世話になっております>NCBI)、KEGGとかもあるけれど、果たしてそれらのDBがそういうフレームワーク化にあたっての先駆けとなるのかなといわれると、やっぱりちょっと疑問。

というか、そもそも生物学におけるフレームワークが成立するかという話の時点で眉唾かなぁと思ってる。実験/観測技術そのものがまだまだ発展途上だし、先のエントリに書かれていたようにシミュレーションに必要な環境依存な変動因子が多すぎる。

仮に実現できたとしても、まだまだ数百年スパンで先の話じゃないかなぁ。

ということで

ぐだぐだ書いたけど、やっぱり生命科学は面白いよ。最近つくづくそう思う。今のところは、だけどね。
ただ、面白いんだけども、ふと今自分がやってる仕事がこの先どういう方向に流れていくんだろう、ということを考えると、なかなかに難しい気分になったりもする。
大口を叩かせていただくと、生命科学が持つポテンシャルは凄く大きいんだろうけど、まだみんながみんなそのポテンシャルに気がついているわけじゃない、という状況かなと思う。まぁ自分が生きてる間に少しでも生命科学がどのように進んでいくのかを見守ることができれば。

余談

えとですね、構造生物学の分野では生化とITの両刀遣いな方を募集中です。というかこの世界、ソフトウェアがないと存続できないわけでして、イギリスでは国家プロジェクトとして進んでたりします。日本では Open-Bio 研究会とかが頑張ってはいるようなのですが、なかなか難しいようです。

*1:掻い摘むと、タンパク質の三次元立体構造を解析して構造と機能との相関関係を研究する分野。

*2:プログラムのコードを書くという作業は対象を客観視し、その動作を改めて規定していく作業に他ならないわけですし。

*3:全くもって専門分野じゃないので穴ありまくりな気が。

*4:これも対象広すぎワロタ

*5:に限らず、多くの先端分野とされる学問領域はそうじゃないかなと。